第25章 マザーテレサ


マザーテレサは、インドの貧民街で貧しい人たちへの援助をしていたのではありま
せん。マザーテレサは、誰からも見放され、見捨てられて今まさに死にゆく人々に、
その時こそ親である神様の存在を伝えなければならないと、真剣に考えて行動した
のです。

インドの大都市カルカッタでは数十万人の貧しい路上生活者がおり、生まれた時に、
こじきとして生活しやすいようにと、腕や足を切り落とされて親から捨てられ、路上
生活者となるのです。親から捨てられ、物乞いをしながらさげすまされて生きて来た
彼等は、病気や老衰で死に向かった時、「自分の人生はなんと哀れでむなしいものだ
ったのだろうか、今度生まれ変わる時は、動物になるのだろうか」と、不安と恐怖の
思いで死の時をじっと待っているのです。

そんな時、マザーテレサは、「あなたは望まれてこの世に生まれてきたのですよ。
地上の親はあなたを捨てましたが、親である神様は、あなたの誕生を喜び、あなたが
幸せになることを願いました。そしてあなたの成長とあなたの人生をじっと見つめて
きました。今、地上での苦しかった人生に終りを告げようとしています。神様は、
あなたを天国の民として喜んで迎えようとしておられます。どうか安心して行って
ください」と確信をもってやさしく語ったのです。

今まで誰からも喜ばれなかった自分を喜んでくれて、そして天国で迎えようとして
おられる神様がおられるなんて、何という喜びでしょうか。彼等は今までの人生の中
で聞いたことのない言葉を聞き、優しくて温かいまなざしの中で、安心して死んで
いくことができたのです。

マザーテレサにとって、死は恐怖ではありません。死の宣告は、むしろ神様が天国を
準備して歓迎してくださることを伝える究極の福音なのです。もう病気の苦しみもあ
りません。悲しみもありません。死の恐怖もありません。神様の愛の中で永遠に生き
ることのできる、平安の世界、喜びの世界が待っているのです。

昨年から「千の風になって」の歌が歌われ、亡くなっても消えてしまうのではなく、
もうひとつの世界で生きているという伝統的思想が共感を呼ぶようになっています。
また、霊界についてのさまざまなテレビ番組が放送されるようになっています。
死後の世界が存在すると信じて生きる生き方は、死んだら終わりだという生き方より
も、楽しく希望の持てる人生を送れるのではないでしょうか。