神社の社殿まで続く長い一本道の右から左から、いい匂いがしてきて、あたしは必死にお腹が鳴りそうなのをこらえた。
その時、あたしの隣で剣太郎が変な節つけて歌いだした。
「たっこ焼っき、いっか焼っき、焼っきもろこーしっ♪ワタアメりんご飴カッキ氷〜♪さー何から食べよっかぁっ!」
「……剣太郎。その前にひとつツッコんでいい?」
「なーに?」
「何、その局地的な歌」
「夏祭りの歌〜♪作曲作詞・僕!」
「…………あ、そう」
上機嫌で答えて、同じ歌(これを歌と呼ぶのもどうなんだろう)を繰り返してる。
しかも節回し微妙に変わってるし……。
夜店ひとつひとつに首を突っ込まんばかりの剣太郎の後ろから、ダビデがひょっこり顔を覗かせた。
反射的のその顔を見上げたあたしの目を見返して、屋台のひとつを指差して。
「あれ、食わない?」
「焼きもろこし?いいよ、じゃああたし買って来よっか」
「や、一緒に行く」
「そう?」
わたあめの屋台にへばりついてる剣太郎と、それを呆れ顔で見てるサエちゃんたちに「ちょっと行ってくるー」と声をかけて、ダビデと二人で焼きもろこしの屋台を覗いた。
汗だくになってとうもろこし焼いてるオジサンが、満開の笑顔で「へいっ、らっしゃい!」と声を上げた。
「二つ下さい」
「はいよ!何だい、浴衣でデートかい?いいねぇ若い子は!」
「―――ふぇっ!?」
100%悪気ナシの笑顔で、オジサンがそんなこと言って。
まさかダビデとそういう風に見られるとは思ってなかったから、びっくりしてぽかんと口を空けて固まってしまった。
そしたら、ダビデが自分の財布からお金を出して、オジサンに渡しながらフツーの顔して頷いて。
「まぁそんなとこ」
「わははは!素直だなぁオニイちゃん!200円でいいぞ、一本オマケだ!」
「え、マジで?どーもありがとうございます」
「えっ、えっ?」
「毎度ー!!」
片手で器用に焼きもろこし二本持って、ダビデは呆気に取られたままのあたしの手を引っ張って屋台を出てしまった。
オジサンの「仲良くやれよー!」なんて声がトドメみたいに背中にぶつかってきて、今更のようにあたしは顔に血が昇って火照ってきた頬を押さえた。
そこへ、目の前に程よく焼けた焼きもろこしを突き出した手。
「ん。の分」
「……誰と誰がデートなのよぅっ」
「俺、と、?」
「だからなんでそこで疑問形になるかなー!?」
「……と、サエさんとバネさんと亮さんといっちゃんと剣太郎。と、言おうと思ったんだけど」
…………それのどこがデートか。
何かもう、言うだけ無駄な気がして、がっくり肩を落としつつ焼きもろこしを受け取った。
ダビデ相手に意識しちゃったあたしがバカだった!
みんなのとこに戻ると、でっかいわたあめを片手にご満悦の剣太郎が、今度はりんご飴の屋台に目を奪われていた。
まず手の中のものを片付けてからにしろっての。
ちょっと焦げたしょうゆが香ばしい焼きもろこしを一口かじる。
あたしの隣ではダビデが豪快にかぶりついていて、それを見たバネちゃんがダビデに向かって手を伸ばした。
「美味そうじゃん、一口よこせ、ダビデ」
「ヤダ」
「ンだよ、ケチくせぇなぁ」
「したらバネちゃん、あたしの食べる?」
そう言って差し出したあたしの焼きもろこし、バネちゃんが手に取るより早く。
ダビデがもう半分くらいなくなってた自分の焼きもろこし、バネちゃんの目の前に突き出した。
「やっぱ食っていいよバネさん」
「ああ?何だよ、ヤダってったりイイってったり」
「……考えてみたら、イカ焼きも食いたかったんで」
「なんだそりゃあ?」
いぶかしげな顔して、それでもバネちゃんはダビデの食べかけ受け取って。
それにかぶりついたとこで、ダビデがぼそっと一言。
「……コーンがり焼けた焼きもろこしは美味い……ぷっ」
「面白くねぇ!!」
「バネちゃん、こんなとこで蹴り入れちゃダメー!!」
ああもう、何でいつもこうなるかなぁっ!
じりじりと睨み合う二人のとばっちりを受けたくなくて、あたしはサエちゃんたちの傍に行った。
剣太郎が誘惑に負けてりんご飴を買ったところで、でっかいわたあめの陰でそれはもう嬉しそうに笑ってた。
ピンク色のふわふわしたそれを見てたら、なんだかあたしも食べたくなってきて。
「剣太郎、わたあめ一口ちょーだいv」
「うん、いーよ!じゃあ僕も焼きもろこし一口ちょーだい♪」
手の中のわたあめととうもろこしを交換して、あたしはふわっふわのあまい飴に噛みついた。
ピンク色のわたあめは舌の上でさっと溶けて、甘いお砂糖の味が口いっぱいに広がる。
剣太郎も、とうもろこしをかじって幸せそうに笑ってた。
その後も、イカ焼きやらカキ氷やらお好み焼きやら堪能して。
やっと神社の社殿にたどり着いた時、タイミングを図ったように、ドォン!と大きな音がした。