運命の出会い | 1994年、夏の暑い暑い昼下がり。 仕事先の建物裏ではじめてこの猫と出会いました。 やせて汚くて毛もバサバサ、苦悩に満ちたような不安げな顔、なんともひどい猫。 にゃぁ・・・自転車の陰からこちらをのぞきながらそっと鳴く声が、何か訴えかけているようで、 このままほおっておけるはずもなく、猛暑の日差しの中でひとりぼっちのこの猫に、 水をあげたのが最初の交流となりました。 周囲に猫好きの方が多く、いろいろな猫がこのあたりにはいましたが、顔はすべて把握済み。 この猫は、初めて見かける小柄な猫でした。 推察するに、散歩中に迷ってしまったのか、何かの事情で一緒に住む人と家が なくなってしまったのかと思われる。行動半径が狭いということがあとでわかったので、 多分おうちがなくなってしまったのだと思う。 水も食べ物も思うように見つからず、随分とつらい思いをしたに違いない。 のちにこの猫が私のかけがえのない「たからもの」になります。 |
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交流 | 建物の周りに時々姿を見せるようになった猫。 毛並みも顔もお世辞でも「わぁ〜!かわいい」といえるタイプではなく、 自分ちの猫の残りご飯をあげていた心優しき人でさえ、「わるしゃ〜」(顔が悪いという意味?)と呼ぶ。 私はというと、仕事先ですから居つかれてはいけないと思いつれなくしていましたが、 行く場のない子に鬼にはなれぬ。 仕事先のオーナーが心広き動物好きだったことも幸いし、徐々に親密度アップ! 名前は「のら」、英名は「 nolanola 」。 きまって毎日ゴハンをもらい、仕事場でお昼寝もするようになりました。 しばらくすると、私がバイク出勤で到着すると、「待ってました!」と塀の上から即、登場! 遅れでもしたら「今日は遅い!」と言わんばかりに大きな声で抗議の嵐。 私は完全たる「賄いさん」の地位を獲得したのでした。 |
生い立ち(推測) | nolanola は、迷い猫なので年齢は不詳。 のまず食わずだったらしいことと、ノミがたくさんいたことでやせっぽちだったけど、 小柄な身体の大きさから多分生後1年前後の猫だったのではないかと思う。 どこかのお家でしつけされ、飼われていた猫にきっとちがいない。 きびしいしつけだったのか、いやいや、nolanola は頭が良い子なのだろう。 自分の物と他人の物をきちんと区別し(猫は思慮深い)、机や棚の上に飛び乗ったりしないし、 決まった所以外で爪もとがない。人がなにか食べていても、ほしがって鳴いたり手を伸ばしたりしない。 WCは外に決めた場所があるらしい。 一度、WCの用意もせずに仕事場に閉じ込めたまま外出してしまったときなど、 なんと流しで用事をすませていたっけ。猫なりに考え、少しでも無難な場所を選択したとみえる。 余程ガマンして迷った末のことと申し訳なく、「本当にすまなかったね」と謝りました。 |
冬の到来 | 数ヶ月もたてば寒い冬が訪れる。 nolanolaは、昼間は仕事場の中でゴハンを食べてうたたね、夜は外に出して私は退社する。 はじめは裏にダンボールを置いたりしてみたが、木枯らしはつらかろうと、 ついに猫バッグを用意して自宅に連れて帰ることに・・・しかもバイクで・・・ ペット禁止のマンションだったので、出勤・帰宅ともにハラハラの連続。 しかし、nolanola は状況がよく理解できていて協力的。 袋の中に入れて建物の出入りをするときは一切鳴かない。 幾度か狭いエレベーターの中で、管理人さんと一緒になってしまったときも、 じ〜っとまるで荷物の振りで、まったく気付かれず事なきを得た。 頭がいい!すっばらしい!とますますおそれいった。 かくして雨にも負けず風にも負けず、猫袋での一緒の出勤、退社という、 おそらく普通の猫にはあるまじきバイク通勤生活が始まったのでした。 |
通勤か留守番か つらい二者択一 |
私の諸事情によりnolanola は4回ものひっこしをした。 猫袋での通勤時間は、近いところで5分、遠いところでは20分となった。 冬用・夏用の猫袋を用意し、季節にも対応していたが、 やはりバイクに揺られての20分は結構きびしい。当然である。 はじめは協力的に猫袋に入っていたが、通勤時間20分で落ち着いた頃には、 だんだんと拒否反応が。 朝の出勤準備が整い「さて!」というところで、スルスルッとベッドの下へ・・・。 無理やり捕まえて袋に入れようとすると大泣きをする。 雨の日・寒い日など自然とお留守番が多くなり、徐々にインドア生活になっていったのである。 昔、飼い猫が自宅のしかも目の前で車の事故にあった苦い経験があった。 ここは住宅街で車の通行料は少ないが、それがかえって車のアクセルを思いっきり 踏ませることもあるようで、危なっかしくて外に出せない。 窓の外をたまに眺める生活、nolanola の白い毛はますます真っ白になっていったのでした。 |
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人間不信? | nolanola はどうも人が苦手らしい。さわられるなんてもってのほかだ。 特にガタガタ音を立てるうるさい人、落ち着きのない人、手の動作が早い人、 性別でいうと苦手は特に男性に多いようである。初対面の人が触るなんて絶対無理。 逃げるか爪で引っ掻くかのどちらかである。 女性でも余程その人が猫を飼ったことのある人で、やさしい声で話しかけながらでないと まず触れることは難しいようである。 これまでnolanola の頭を撫でたのは自分を含め数名しか知らない。 長年共にいる私はさすがに何をしても許してくれるが、それでも遊んだりブラシをしたりしているとき、 たまに突然 バリッ!ってことも。「調子に乗るな!これはご褒美!」って。 よく猫は人に媚びるとかいうけどまったくの嘘である。気まぐれというのは間違いない。 我が道をゆく、なのだ。 |
カメラ嫌い | nolanola は美人である。 もとが可愛いのだからすごく可愛い写真が撮れてもよさそうだが、とにかくカメラは嫌い。 何やら四角い物体を向けられた途端、目をそらす。 「のんちゃ〜ん、こっち向いてぇ」なんて猫撫で声を出しても、 おもちゃで気を引こうとしてもプイと横を向く。 どうにか正面をとらえて無理に笑わせても口が曲がる。 口が曲がるのは、歯が上下きちんとないせいもあって、力が入っている時に 左の下の歯(牙)が上唇にかんでしまうためである。 そしてシャッター音の後はうんざりしたようにお尻を向ける。 いつもじ〜っと私の行動を観察しているのに、カメラがじ〜っと自分を追うのはだいっキライ! シャイなおひめさまなのである。 |
寝るのも仕事 | 熟睡ではないにしろ、猫はよく寝る。 私の行動を一部始終じっくり観察するのがnolanola の趣味であるが、つまらないときは寝る。 耳だけは起きていてこっちを向いているが、観察する価値もなければとにかく寝る。 昔、よく遊んだオモチャも、仕組みがわかってしまうと面白くないのですぐ寝る。 ゴハンを食べ、外を眺め、たまにスズメやヒヨドリに興奮して、また寝る。これも大切な仕事。 1994年から一緒に暮らし始めて、ゆっくりゆっくり時間が流れた。 泣いたり笑ったり怒ったり、落ち込んだときも、調子に乗りすぎているときも、 いつもnolanola は澄んだ緑の瞳でじっと状況を見つめてきた。 実際にいくつになるのかわからないが、以前に比べるとジャンプする力がなくなってきて、 高い所に上がるにはワンクッション必要。 無理をしないように気をつけて。 |