日本書紀を読んで古事記神話を笑う

日本書紀を読んで古事記神話を笑う 改訂新版

2009年10月5日up
(物語読者として日本神話を解明する)


第46 スサノヲにおける縄文と弥生の交錯(大年神の系譜)


大年神の系譜を日本書紀と対照してみる

 長らく日本書紀を検討してきた。スサノヲがいかなる神であるか。古事記だけを読んでいても何もわからないことがわかったと思う。

 ここで古事記に戻ろう。

 スサノヲは,出雲の建国者なのだった。その子孫は,出雲で繁栄する。それが,いわゆるオオトシ(大年神=おおとしのかみ)の神裔という部分だ。

 すでに述べたスサノヲとイタケルらに関する日本書紀の系譜と,古事記の系譜をまとめてみよう。図示すると以下のとおりだ。

(日本書紀第8段第1の一書等)

クシナダヒメ
  ↑
   清の湯山主三名狭漏彦八嶋篠 ………… オオナムチ(オオクニヌシ)
  ↓
スサノヲ
  ↑
   五十猛命,大屋津姫命,柧津姫命
  ↓
  ?

(古事記)

クシナダヒメ
  ↑
   八島士奴美神 …………………………… オオクニヌシ
  ↓
スサノヲ
  ↑
   大年神 ― 大国御魂神 ― 韓神 ― 曾富理神 ― 白日神……
  ↓         ……聖神,御年神,竈神,大土神,大気都比賣神
神大市比賣(大山津見神の娘)


日本書紀と古事記の対応関係

 両者ともに,国作りに功のあった神々(クシナダヒメとの子の系譜)と,食物をもたらした神々(五十猛神らの系譜と大年神の系譜)とに分けて系譜にしている。

 きれいに対応している。

 学者さんによっては,オオトシの神裔は叙述の位置が唐突であり,そこに記載されている松尾大社や日枝神社の関係者が強引にねじ込んだのではないかと言う。

 しかし,日本書紀とのこの対照を考えると,その人が,古来の伝承を知っていたことは確かなようである。


国作りに功のあった神々を検討する

 日本書紀では,オオナムチ(オオクニヌシ)に連なる直系の神が「清の湯山主三名狭漏彦八嶋篠(ゆやまぬしみなさるひこやしましの)」だ。この「八嶋篠(やしましの)」が,古事記の「八島士奴美神(やしまじぬみのかみ)」の「やしま」なのだろう。

 共に,八嶋ないし八島を名にもつ神だ。これは,大八洲国のことだろう。

 大八洲国を作ったのは,後述するとおりオオナムチ(オオクニヌシ)だった。だからこそ,その祖先は,八嶋ないし八島の字をもっているのだろう。

 この点,日本書紀の異伝も古事記も一致している。


食物をもたらした神々の系譜を検討する・縄文と弥生の交錯がある

 一方,日本書紀のイタケル(五十猛神)の系譜は,古事記のオオトシ(大年神)の系譜に該当するようだ。

 イタケルらは,新羅からやって来て,大八洲国に木の文化と木種を広め,食料となる木の実を広めた神だった。

 縄文の神である。

 古事記がいうオオトシも,朝鮮からやって来た神のようだ。ここには,韓神,曾富理神,白日神らがいる。明らかに朝鮮系の系譜だ。

 ただし,古事記のこの系譜は,弥生の神々のようだ。

 オオトシは,稲の実りを意味する神だ。そしてその子孫には,日を知る聖神,年穀を司る御年神,竈,すなわちへっついの神もいる。米や穀物を炊く竈の神だ。土の神大土神,食物の神大気都比賣神もいる。

 五穀に関する神々だ。


古事記の方が新しい伝承を伝えている

 古事記は,なぜ弥生の神,五穀に関する神々を羅列しているのだろうか。

 私は,縄文の系譜を並べた日本書紀の方が古い伝承であり,弥生の系譜を並べた古事記は,新しい伝承であると考える。

 それをスサノヲに結びつけた伝承も,新しい。
 古事記の大年神の系譜は,スサノヲという神が,弥生文化に取り込まれた後の伝承である。

 古事記の伝承は,日本書紀の異伝よりも新しいのだ。

 ただし,「大年神の系譜も平安朝に入ってからの加上である,とする見解がやはりいちばん的中しているように思われる。そしてそれを手がけたのは,おそらく松尾社の社人あたりであっただろう。」という見解がある(西郷信綱・古事記注釈・第3巻・筑摩書房,204頁)。


トップページ( まえがき)

第1 私の立場と問題意識

第2 問題提起

第3 方法論の問題

第4 世界観と世界の生成

第5 神は死なない(神というもののあり方)

第6 原初神と生成神の誕生

第7 日本書紀における原初神と生成神の誕生

第8 修理固成の命令

第9 言葉に対して無神経な古事記(本当に古い文献か)

第10 古事記は伊勢神宮成立後の文献

第10の2 応神記の気比の大神について

第11 国生み叙述の根本的問題

第12 日本神話の読み方を考える(第1子は生み損ないか)

第13 生まれてきた国々を分析する

第14 国生みのあとの神生み

第15 火の神カグツチ「殺し」

第16 黄泉国巡り

第17 コトドワタシと黄泉国再説

第18 禊ぎによる神生みの問題点

第19 日本神話の故郷を探る

第20 大道芸人の紙芝居としての古事記

第21 アマテラスら3神の生成

第22 分治の命令

第23 日本神話の体系的理解(日本書紀を中心に)

第24 日本神話の構造と形成過程

第25 生まれたのは日の神であってアマテラスではない

第26 日の神の接ぎ木構造

第27 最高神?アマテラスの伝承が変容する

第28 泣くスサノヲとイザナキの肩書き

第29 日本神話学の見通しと方法論

第30 日本神話のコスモロジー

第31 誓約による神々の生成(日本書紀)

第32 誓約による神々の生成(古事記)

第33 天の岩屋戸神話と出雲神話が挿入された理由

第34 日本神話のバックグラウンド・縄文から弥生への物語
(日本書紀第5段第11の一書を中心に)


第35 海洋神アマテラスと産霊の神タカミムスヒ
(日本書紀を中心に)


第36 支配命令神は誰なのか(ねじれた接ぎ木構造)

第37 アマテラスとタカミムスヒの極めて危うい関係

第38 五穀と養蚕の文化に対する反逆とオオゲツヒメ

第39 スサノヲの乱暴

第40 「祭る神が祭られる神になった」という幻想

第41 天の石屋戸と祝詞

第42 スサノヲの追放とその論理(日本書紀を中心に)

第43 アマテラス神話は確立していない(日本書紀を中心に)

第44 出雲のスサノヲ

第45 異伝に残された縄文の神スサノヲ(日本書紀を中心に)

第46 スサノヲにおける縄文と弥生の交錯(大年神の系譜)

第47 別の顔をもつスサノヲ(日本書紀を中心に)

第48 オオクニヌシの試練物語のへんてこりん

第49 オオクニヌシの王朝物語

第50 日本書紀第8段第6の一書の構成意図と古事記の悪意

第51 スクナヒコナと神功皇后と応神天皇と朝鮮

第52 偉大なるオオナムチ神話(大八洲国を支配したオオナムチ)

第53 三輪山のオオナムチ(日本書紀第8段第6の一書から)

第54 古事記はどうなっているか

第55 偉大なるオオクニヌシ(オオナムチ)の正体(問題提起)

第56 偉大なるオオクニヌシの正体(崇神天皇5年以降)

第57 崇神天皇5年以降を読み解く

第58 国譲りという名の侵略を考える前提問題

第59 「皇祖」「皇孫」を奪い取る「皇祖神」タカミムスヒ
(国譲りという名の侵略の命令者)


第60 皇祖神タカミムスヒの根拠
(国譲りという名の侵略の命令者)


第61 古事記における命令神
(国譲りという名の侵略の命令者)


第62 第9段第1の一書という異伝中の異伝と古事記

第63 武神の派遣と失敗と「高木神」

第64 タケミカヅチの派遣(タケミカヅチはカグツチの子)

第65 フツヌシとタケミカヅチの異同

第66 コトシロヌシは託宣の神ではないしタケミナカタは漫画

第67 「オオクニヌシの国譲り」の叙述がない

第68 天孫降臨の叙述の構造

第69 サルタヒコの登場

第70 古事記独特の三種の神宝

第71 天孫はどこに降臨したのか

第72 「国まぎ」を切り捨てた古事記のへんてこりん
(天孫降臨のその他の問題点)


第73 国譲り伝承と天孫降臨伝承との間にある断層

第74 じつは侘しい天孫降臨と田舎の土豪神武天皇

第75 天孫土着の物語

第76 火明命とニギハヤヒ(第9段の異伝を検討する)

第77 日向神話の体系的理解

第78 騎馬民族はやって来たか

第79 三種の宝物再論

第80 日本神話の大きな構成(三輪山のオオナムチとの出会い)

第81 海幸彦・山幸彦の物語を検討する

第82 「居場所」のない古事記

第83 本居宣長について

第84 日本神話を論ずる際のルール

第85 神々の黄昏

あとがき

著作権の問題など

付録・初版の「結論とあとがき」


新論文
神功紀を読み解く
神功皇后のごり押しクーデター

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