第46 スサノヲにおける縄文と弥生の交錯(大年神の系譜)
大年神の系譜を日本書紀と対照してみる
長らく日本書紀を検討してきた。スサノヲがいかなる神であるか。古事記だけを読んでいても何もわからないことがわかったと思う。
ここで古事記に戻ろう。
スサノヲは,出雲の建国者なのだった。その子孫は,出雲で繁栄する。それが,いわゆるオオトシ(大年神=おおとしのかみ)の神裔という部分だ。
すでに述べたスサノヲとイタケルらに関する日本書紀の系譜と,古事記の系譜をまとめてみよう。図示すると以下のとおりだ。
(日本書紀第8段第1の一書等)
クシナダヒメ
↑
清の湯山主三名狭漏彦八嶋篠 ………… オオナムチ(オオクニヌシ)
↓
スサノヲ
↑
五十猛命,大屋津姫命,柧津姫命
↓
?
(古事記)
クシナダヒメ
↑
八島士奴美神 …………………………… オオクニヌシ
↓
スサノヲ
↑
大年神 ― 大国御魂神 ― 韓神 ― 曾富理神 ― 白日神……
↓ ……聖神,御年神,竈神,大土神,大気都比賣神
神大市比賣(大山津見神の娘)
日本書紀と古事記の対応関係
両者ともに,国作りに功のあった神々(クシナダヒメとの子の系譜)と,食物をもたらした神々(五十猛神らの系譜と大年神の系譜)とに分けて系譜にしている。
きれいに対応している。
学者さんによっては,オオトシの神裔は叙述の位置が唐突であり,そこに記載されている松尾大社や日枝神社の関係者が強引にねじ込んだのではないかと言う。
しかし,日本書紀とのこの対照を考えると,その人が,古来の伝承を知っていたことは確かなようである。
国作りに功のあった神々を検討する
日本書紀では,オオナムチ(オオクニヌシ)に連なる直系の神が「清の湯山主三名狭漏彦八嶋篠(ゆやまぬしみなさるひこやしましの)」だ。この「八嶋篠(やしましの)」が,古事記の「八島士奴美神(やしまじぬみのかみ)」の「やしま」なのだろう。
共に,八嶋ないし八島を名にもつ神だ。これは,大八洲国のことだろう。
大八洲国を作ったのは,後述するとおりオオナムチ(オオクニヌシ)だった。だからこそ,その祖先は,八嶋ないし八島の字をもっているのだろう。
この点,日本書紀の異伝も古事記も一致している。
食物をもたらした神々の系譜を検討する・縄文と弥生の交錯がある
一方,日本書紀のイタケル(五十猛神)の系譜は,古事記のオオトシ(大年神)の系譜に該当するようだ。
イタケルらは,新羅からやって来て,大八洲国に木の文化と木種を広め,食料となる木の実を広めた神だった。
縄文の神である。
古事記がいうオオトシも,朝鮮からやって来た神のようだ。ここには,韓神,曾富理神,白日神らがいる。明らかに朝鮮系の系譜だ。
ただし,古事記のこの系譜は,弥生の神々のようだ。
オオトシは,稲の実りを意味する神だ。そしてその子孫には,日を知る聖神,年穀を司る御年神,竈,すなわちへっついの神もいる。米や穀物を炊く竈の神だ。土の神大土神,食物の神大気都比賣神もいる。
五穀に関する神々だ。
古事記の方が新しい伝承を伝えている
古事記は,なぜ弥生の神,五穀に関する神々を羅列しているのだろうか。
私は,縄文の系譜を並べた日本書紀の方が古い伝承であり,弥生の系譜を並べた古事記は,新しい伝承であると考える。
それをスサノヲに結びつけた伝承も,新しい。
古事記の大年神の系譜は,スサノヲという神が,弥生文化に取り込まれた後の伝承である。
古事記の伝承は,日本書紀の異伝よりも新しいのだ。
ただし,「大年神の系譜も平安朝に入ってからの加上である,とする見解がやはりいちばん的中しているように思われる。そしてそれを手がけたのは,おそらく松尾社の社人あたりであっただろう。」という見解がある(西郷信綱・古事記注釈・第3巻・筑摩書房,204頁)。 |