日本書紀を読んで古事記神話を笑う

日本書紀を読んで古事記神話を笑う 改訂新版

2009年10月5日up
(物語読者として日本神話を解明する)


第80 日本神話の大きな構成(三輪山のオオナムチとの出会い)


タカミムスヒとアマテラスの出会い(復習)

 ここで,今まで検討してきたことから,日本神話の形成過程を取り上げて,大雑把にまとめておこう。

 前述したとおり,南九州の西海岸,吾田地方にいた海人は,海洋神である日の神,後世言うところのアマテラスをいつき祭っていた(海幸彦)。
 そこには,海洋的性格のイザナキ・イザナミ神話,国生み神話などがあった。

 そこに,タカミムスヒをいつき祭り,天羽羽矢を持つ人々が,五穀と養蚕を携えて,朝鮮からやってきた(山幸彦)。

 彼らは,天孫降臨神話を持っていた。

 こうして,吾田の地において,2つの血が混じりあう。それが「日向神話」の原型である。

 朝鮮からやって来た人々は,吾田を支配した。だからこそ海神は,タカミムスヒの象徴,「真床追衾」の上に座るヒコホホデミに,ひれ伏す(海幸彦・山幸彦の物語)。

 天孫が天降ってから179万2470年後,ヒコホホデミ(山幸彦)の直系の子孫である神武天皇は,日本神話の原型を携えて,「東征」を決意する。


オオナムチ,ニギハヤヒ,そして神武天皇(復習)

 一方,オオナムチをいつき祭る人々が,すでに大八洲国を支配していた。

 オオナムチは,南九州を除く大八洲国をすべて支配し,ヤマトの三輪山に鎮座していた。
 新羅の神スサノヲは,出雲に渡ってきて,オオナムチを子孫として残し,そのオオナムチが,諸国を平定した末に,三輪山に行って政治を行おうとしたのだ。

 これについては,日本書紀や古事記に残されている根拠を,これでもかというくらい提示しておいた。

 神武天皇は,南九州の西海岸「吾田」という片田舎にいた,土豪にすぎない。

 その頃,各地で戦乱が起こり,遠く遙かな地には,「邑(むら)に君有り」「村に長(おさ)有りて」,境界を争っていた(神武即位前紀甲寅10月)。

 これを見て,旧事紀天孫本紀がいう「天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊」,=ニギハヤヒ=火明命が,いち早く河内あたりに天下った。

 シオツツノオヂ(すなわち事勝国勝長狭)は,神武天皇に進言する。
 東の方に,美しいよい国がある。青山が四周を囲んでいる。そこに「天磐船(あまのいわふね)に乗りて飛び降る者有り」。

 神武天皇は答える。「飛び降るといふ者は,是饒速日と謂ふか。何ぞ就きて(ゆきて)都つくらざらむ」(神武天皇即位前紀甲寅年)。

 こうして神武天皇は,ヤマトに入る。


ヤマト三輪山のオオナムチとの出会いと「正当性の契機」

 こうして,吾田で混血し,日の神=海洋神(後世言うところのアマテラス)に加えてタカミムスヒをいつき祭った人々は,さらにヤマトの三輪山にやってきて,オオナムチと出会った。

 こうなると,さらなるオオナムチとの関係を説明しなければならない。

 実際には,出雲の神コトシロヌシと結びつくことにより,ヤマトの世界に定着しようとしたにすぎない。すなわち,出雲の神をいつき祭る人々と,さらに混交していったにすぎない。

 しかし,オオナムチに代わって,タカミムスヒと日の神が新たに大八洲国を支配する神話を作らなければならない。

 それが,日本書紀第6段や古事記の,「誓約」の叙述であり,「正当性の契機の作出」であり,神々を生むアイテムとしての玉なのだった。

 アマテラスを象徴する「玉」から,スサノヲの,オオナムチとは別系統のアメノホヒ,アメノオシホミミなどが生まれ,彼らが,国譲りという名の侵略を行い,さらに「天子降臨」,「天孫降臨」して,新たに葦原中国を支配する者となるのであった。

 これが,「正当性の契機」だ。


「日本神話の再構成」と「壮大なる血の交代劇」

 このからくりを前提にして,勇ましい「国譲りという名の侵略」神話が形成される。

 そしてさらに,「吾田」から携えてきた「天孫降臨」神話が接ぎ木される。

 接ぎ木だから,「大和」に降臨することも「出雲」に降臨することもできない。原伝承どおり,あくまでも,「筑紫の日向の高千穂のくじふる峯」,「日向の襲の高千穂峯」に降臨するしかない。

 これが,「国譲り伝承と天孫降臨伝承との間にある断層」である。

 こうした,ヤマトにおける「日本神話の再構成」によって,「壮大なる血の交代劇」が完成した。


黄金のトライアングルの完成と三種の神宝

 アマテラスが提供した「八坂瓊の五百箇の御統」=「玉」=卵子から,アメノオシホミミらが生まれたのだった。

 「玉」は,アマテラス直系の子であることの証明であるとともに,スサノヲの子孫であることの証明でもあった。それが「正当性の契機」だ。

 そしてスサノヲは,オオナムチにその血統を残す。すなわち「正当性の契機」は,アマテラスとスサノヲだけでなく,オオナムチとのつながりをも示す。

 タカミムスヒをいつき祭る人々と,日の神(後にいわゆるアマテラス)をいつき祭る人々の混交。
 これに加えて,オオナムチをいつき祭る人々との混交。

 これにより,朝鮮から来たタカミムスヒ+吾田にいた日の神(のちのアマテラス)+ヤマトの大三輪にいたオオナムチ,という黄金のトライアングルが完成する。

 観念の世界における,3神の融和が完成するのだ。
 その完成形態が,「三種の宝物」であろう。


トップページ( まえがき)

第1 私の立場と問題意識

第2 問題提起

第3 方法論の問題

第4 世界観と世界の生成

第5 神は死なない(神というもののあり方)

第6 原初神と生成神の誕生

第7 日本書紀における原初神と生成神の誕生

第8 修理固成の命令

第9 言葉に対して無神経な古事記(本当に古い文献か)

第10 古事記は伊勢神宮成立後の文献

第10の2 応神記の気比の大神について

第11 国生み叙述の根本的問題

第12 日本神話の読み方を考える(第1子は生み損ないか)

第13 生まれてきた国々を分析する

第14 国生みのあとの神生み

第15 火の神カグツチ「殺し」

第16 黄泉国巡り

第17 コトドワタシと黄泉国再説

第18 禊ぎによる神生みの問題点

第19 日本神話の故郷を探る

第20 大道芸人の紙芝居としての古事記

第21 アマテラスら3神の生成

第22 分治の命令

第23 日本神話の体系的理解(日本書紀を中心に)

第24 日本神話の構造と形成過程

第25 生まれたのは日の神であってアマテラスではない

第26 日の神の接ぎ木構造

第27 最高神?アマテラスの伝承が変容する

第28 泣くスサノヲとイザナキの肩書き

第29 日本神話学の見通しと方法論

第30 日本神話のコスモロジー

第31 誓約による神々の生成(日本書紀)

第32 誓約による神々の生成(古事記)

第33 天の岩屋戸神話と出雲神話が挿入された理由

第34 日本神話のバックグラウンド・縄文から弥生への物語
(日本書紀第5段第11の一書を中心に)


第35 海洋神アマテラスと産霊の神タカミムスヒ
(日本書紀を中心に)


第36 支配命令神は誰なのか(ねじれた接ぎ木構造)

第37 アマテラスとタカミムスヒの極めて危うい関係

第38 五穀と養蚕の文化に対する反逆とオオゲツヒメ

第39 スサノヲの乱暴

第40 「祭る神が祭られる神になった」という幻想

第41 天の石屋戸と祝詞

第42 スサノヲの追放とその論理(日本書紀を中心に)

第43 アマテラス神話は確立していない(日本書紀を中心に)

第44 出雲のスサノヲ

第45 異伝に残された縄文の神スサノヲ(日本書紀を中心に)

第46 スサノヲにおける縄文と弥生の交錯(大年神の系譜)

第47 別の顔をもつスサノヲ(日本書紀を中心に)

第48 オオクニヌシの試練物語のへんてこりん

第49 オオクニヌシの王朝物語

第50 日本書紀第8段第6の一書の構成意図と古事記の悪意

第51 スクナヒコナと神功皇后と応神天皇と朝鮮

第52 偉大なるオオナムチ神話(大八洲国を支配したオオナムチ)

第53 三輪山のオオナムチ(日本書紀第8段第6の一書から)

第54 古事記はどうなっているか

第55 偉大なるオオクニヌシ(オオナムチ)の正体(問題提起)

第56 偉大なるオオクニヌシの正体(崇神天皇5年以降)

第57 崇神天皇5年以降を読み解く

第58 国譲りという名の侵略を考える前提問題

第59 「皇祖」「皇孫」を奪い取る「皇祖神」タカミムスヒ
(国譲りという名の侵略の命令者)


第60 皇祖神タカミムスヒの根拠
(国譲りという名の侵略の命令者)


第61 古事記における命令神
(国譲りという名の侵略の命令者)


第62 第9段第1の一書という異伝中の異伝と古事記

第63 武神の派遣と失敗と「高木神」

第64 タケミカヅチの派遣(タケミカヅチはカグツチの子)

第65 フツヌシとタケミカヅチの異同

第66 コトシロヌシは託宣の神ではないしタケミナカタは漫画

第67 「オオクニヌシの国譲り」の叙述がない

第68 天孫降臨の叙述の構造

第69 サルタヒコの登場

第70 古事記独特の三種の神宝

第71 天孫はどこに降臨したのか

第72 「国まぎ」を切り捨てた古事記のへんてこりん
(天孫降臨のその他の問題点)


第73 国譲り伝承と天孫降臨伝承との間にある断層

第74 じつは侘しい天孫降臨と田舎の土豪神武天皇

第75 天孫土着の物語

第76 火明命とニギハヤヒ(第9段の異伝を検討する)

第77 日向神話の体系的理解

第78 騎馬民族はやって来たか

第79 三種の宝物再論

第80 日本神話の大きな構成(三輪山のオオナムチとの出会い)

第81 海幸彦・山幸彦の物語を検討する

第82 「居場所」のない古事記

第83 本居宣長について

第84 日本神話を論ずる際のルール

第85 神々の黄昏

あとがき

著作権の問題など

付録・初版の「結論とあとがき」


新論文
神功紀を読み解く
神功皇后のごり押しクーデター

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